京都・西陣で出会った、昆布だしの世界。五辻昆布を訪ねて|だしシリーズ【一滴:プロローグ】

※本ページはアフィリエイトを含みます

新緑が美しい4月17日。私は京都の西陣にある老舗「五辻昆布」さんの暖簾をくぐりました。
1階の店舗の奥にある階段を登ると、目の前に現れたのは、ガラス貼りになった今回の昆布だし体験の本会場――「昆布と麺 喜一」の空間です。
そこで過ごした時間は、私の「食」に対する価値観を根底から揺さぶる、あまりにも濃密な体験の連続でした。

店内に満ちる凛とした空気、プロの静かで美しい手仕事、そして最後に目の前で完成したあの料理の立体的な味わい――。

思い返せば、あの日の体験は、単に「だしの引き方を教わる」というレベルのものではありませんでした。
それは、昆布という一つの素材の命を徹底的に使い切るプロフェッショナルな教えであり、私たちが普段いかに「強い味」に慣らされているかを気づかせてくれる、五感が呼び覚まされるような時間だったと感じています。

あまりにも受け取ったものが多すぎて、これまでなかなか一本の記事にまとめることができずにいましたが、ようやくその全貌を言葉に紡ぐ準備が整いました。

ここから始まる連載の、「はじまりの一滴」として。
まずはあの日、私の五感に刻まれた記憶から綴っていこうと思います。

目次

​現場でノートに書き留めた、昆布だしの本質

五辻昆布さんで向き合ったのは、それまで私が想像していたものとは全く違う「だし」の姿でした。私が現場で感動とともに書き留めた、昆布だしの本当の特徴は3つあります。

・香りは驚くほど控えめであること
​・口に含んだ瞬間よりも、一歩“後からじわじわと広がる”感覚があること
​・前に出る強さではなく、すべての素材を受け止める「土台」になる旨味であること

派手な味や香りで引きつけるのではなく、自らは一歩引きながら、組み合わさる他の素材の良さを引き出すために存在する。


和食の世界がよく「引き算の文化」と表現される本当の意味が、言葉ではなく、五感を通してストンと腑に落ちた瞬間でした。

​プロのレクチャーで覆された、これまでの思い込み

さらに、店内でカウンターを挟み対面でじっくりとお話を伺う中で、私の思い込みを優しく覆すような、プロならではの具体的なレクチャーをたくさん受けることができました。

・昆布の種類(利尻・真昆布・羅臼など)による劇的な個性の違い
​・「温度」によって、抽出されるだしの表情がガラリと変わること
​・長く煮出せば良いわけではないという事実(引き際が肝心!)

「時間をかけてじっくり煮出すほど、良いだしが出る」と思い込んでいた私にとって、100℃に沸騰したお湯に昆布を入れ、すぐに「火を消して15分だけさらす」というプロの引き際のお話は、まさに目から鱗の体験でした。
長く煮出しすぎると、余計な雑味やエグみまでがスープに溶け出して、あの透き通ったやさしい味が濁ってしまうのです。

実際に飲み比べて分かった、3つの昆布の明確な個性

​今回の体験では、頭で学ぶだけでなく、実際に3種類の昆布だしをグラスで「飲み比べる」という贅沢な時間もありました。

同じ「昆布だし」という言葉で一括りにされていても、その味わいも、、香りが立ち上がる「瞬間」の方向性も全く異なる。
それぞれの素材が持つ明確な個性を、自身の舌でリアルに感じ取ることができたのは、強烈な記憶として残っています。

​・​真昆布(函館・松前藩の献上品)= ひと口目に、まったりとしたトロミと上品で透き通った甘みが広がる
​・利尻昆布(北海道北)= 味わいの「真ん中」で真価を発揮する、軽いお吸い物にもぴったりの清涼感とコク
​・羅臼昆布(知床・昆布の王様)= ぐっと「後」から追いかけてくる、濃厚で力強い塩気の効いた旨味の主張

知識として名前を知っていることと、実際に五感でその「圧倒的な違い」を体験することの間には、果てしない隔たりがある。そう痛感させられるほど、三者三様の豊かな世界がそこには広がっていました。

だしの真髄を味わう、究極のラーメン実食

​そして、今回の取材の最大のクライマックスであり、最も感動したのが「ラーメン」の実食でした。
​醤油も油も一切使わず、純粋な無添加ヘルシーを追求したスープ。うるめ・サバ・干し椎茸といった魚介の旨味(イノシン酸やグアニル酸)だけでなく、ドライフルーツやドライトマト、木の実、さらには茶葉までをも掛け合わせ、昆布のグルタミン酸と出会わせることで生まれる立体的な世界。

だし単体で味わっていた時にはまだ見えてこなかった深い奥行きが、全粒粉のオリジナル麺や、香ばしい「とようけ茶屋」のお揚げ、爽やかな柚子、そして鶏チャーシューという「ひとつの料理」として完成されることで、目の前でパッと立体的に浮かび上がってきたのです。

そこで出会ったのは、いわゆる「強い味」のラーメンとは一線を画す、喉を通ったあとに優しく残る“圧倒的な余韻”としての旨味でした。
​普段は当たり前のように無意識に口にしている「だし」ですが、こうして五感を研ぎ澄まして意識的に味わうことで、日々の食の見え方そのものがガラリと変わる感覚を覚えたのです。

難しく考えすぎない、これからの選択

​「お本物の昆布からだしを取るなんて、やっぱりハードルが高い」と感じてしまうかもしれません。ですが、今回プロの教えの先にみえてきたのは、日々の暮らしの中で気楽に楽しむための温かいヒントでした。

・ボトルに水と3cm角の昆布を4〜5枚入れて1日置くだけの「水出し」
​・使い終わった昆布を冷凍庫で保管する「昆布氷」の賢い工夫
​・「頭(上)は濃く、下は薄い」という部位ごとの個性を知るおもしろさ
・​カタバ包丁で削られた後、サバ寿司の白板昆布として命を使い切る姿


完璧な正解を求めず、難しく考えすぎないこと。
​“旨味を外から足す”という足し算の思考ではなく、素材そのものが持つ良さを引き立てるための存在としてのだし。

今回、五辻昆布で教わったのは、「昆布だしは難しいものではなく、まずは気軽に触れてみればいい」ということでした。
お店で出会った、あの昆布の世界を、おうちでも少し楽しんでみたい方へ。


今回の濃密な体験の全貌は、一つの記事では到底語り尽くせません。
だからこそ、このエピソードゼロを皮切りに、ここからいくつかの物語に分けて、その深遠なる世界を丁寧に記録していくことに決めました。

取材を通して印象的だったのは、昆布によって、香りも、甘みも、だしの余韻もまったく違っていたこと。
昆布の違いを、自宅でも少し試してみたい方は、こうした食べ比べセットも面白いかもしれません。


だしシリーズの幕開けとなる【一滴・昆布だし】の物語。
まずはその背景から。次回「一昆布(知る)」へと、つづきます。

今回取材させていただいた五辻昆布については、公式サイトでも見ることができます。

よろしければシェアして下さいね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次