柴田宮司から伺った、上賀茂の地に息づく千年の調和のお話。
自然にそっと寄り添うその優しい姿勢は、境内の空気だけでなく、神社のすぐお隣にあるこの温かい会館の中にも、満ちあふれていました。

ここからは、今回のイベントのもう一つの特別なお愉しみ。五感を通じて上賀茂の息遣いを形にする、愛おしい「手仕事」の時間へと皆様をご案内します。
部屋中に満ちていく、珈琲と桜の新しい出逢い

今回の体験で何よりも驚いたのは、目の前に用意された香料のリストの中に、みずみずしい「桜」と、香ばしい「珈琲」の香りが用意されていたことです。
「今回は、桜と珈琲の香りを加えるという独自の試みをします」
そう笑顔で語ってくださったのは、京都の地で古くから暖簾を掲げる老舗・山田松香木堂(やまだまつこうぼくどう)の、担当の高橋さんです。

最初は伝統的なお香の独特な香りが漂っていた会場でしたが、調合が始まると、お部屋の空気は一変します。ふわりと、心地よい珈琲の香ばしさと桜の華やかさが混ざり合い、部屋いっぱいに満ちていくのです。周りの皆様からも「あぁ、珈琲のいい香りがする……」と思わず笑みがこぼれていました。
指先で懸命に紡ぐ、世界に一つの調合

慣れない手つきで、それぞれの香りの分量を確かめながら、指定された通りに慎重に調合を進めていきます。
一つひとつの香りの個性を確かめ、指先を動かして混ぜ合わせていく作業は、思った以上に真剣そのもの。置いていかれないようにとはやる気持ちもあり、ゆっくりと香りを味わう余裕がないほど夢中になって指先を動かしました。
仕上げた香りを小さな和紙の袋に入れてテープで止め、ずらりと並んだ着物地の中から、自分の心にすとんと落ちるお気に入りの布地を選びます。
袋の口を丁寧に折り込み、上賀茂神社のシンボルである「葵」のチャームがあしらわれた美しい紐で結びあげる――。
約1時間、指先にすべての意識を集中させて紡ぎ出したそのお守りは、慌ただしさの中にも、今日という特別な日の記憶がぎゅっと凝縮されているような愛おしさがありました。
手仕事が「香守(かおまもり)」へと変わる、聖なる約束

高橋さんは、お守りを結び終えた私たちに、とても素敵なことを教えてくださいました。
「今回の手仕事は、ただ香り袋を作って終わりではありません。皆様がご自身の手で調合されたものを神前へ奉納し、お祓いを受けていただくことで、初めて本物の『香守(かおまもり)』として完成するものなのです」
その言葉を聞いた瞬間、自分の指先で作ったばかりの香り袋が、急にじんわりと温かみを帯びたような気がしました。
自分が体験した五感の記憶が、神聖な祈りと結びついて、世界にたった一つのお守りになる。
そんな深い感動を胸に抱きながら、私たちは完成したばかりの香り袋をそっと手に持ち、次なる特別な舞台へと足を運ぶことになります。
神様へ奉納し、お祓いを受けて完成する「香守」

完成したばかりの袋をそっと手に抱き、私たちは本殿へと向かいました。
この手仕事の本当の完成は、自分の手から一度、神様の元へと手を離れ、ご祈祷を受けていただく瞬間にあります。神前にて丁寧に奉納され、お祓いを受けていただく時間。
清く澄み切った境内の空気の中、神々しい鳥のさえずりが優しく響き渡るなかで、巫女さんが振るう鈴の音がシャン、シャンと美しく頭上に降り注ぎます。
その清らかな音色を浴びていると、自分が指先で一生懸命に紡いだ香りが、上賀茂の神聖な空気と完全に一つに溶け合っていくような、不思議な感動に包まれました。
神様とのご縁をいただき、お祓いを終えて再び手元に戻ってきた香守は、なんだか最初に出来上がったときよりも、ずっと特別で、じんわりと温かい安心感を宿しているように感じられます。
世界に一つの記憶を、いつまでも側に

宮司の柴田さんのお話に耳を傾け、神山湧水のコーヒーを味わいながら、上賀茂神社の象徴である「双葉葵」と可憐な「桜」をかたどった落雁をいただく贅沢なひととき。そして、指先で桜と珈琲の香りを紡いで、神様にお祓いをしていただく――。
この五感のすべて、そして今日という日の特別な記憶が、この小さな着物地の袋の中に、ぎゅっと大切に封じ込められました。
お家に帰ってからも、この香守をそっと手にするたびに、上賀茂神社のあの清々しいせせらぎや、優しく響いた鈴の音が、いつでも私の心をはんなりと整えてくれそうです。
皆様も上賀茂神社を訪れた際は、ぜひこの土地の豊かな水や伝統に触れ、ご自身だけの特別なご縁を五感で感じてみてくださいね。

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